からほこの池

 布生のバス停から「白井林道」をどんどん進んで行くとな、奈良県曽爾の「伊賀見」に出る。この道は布生と曽爾を結ぶたった一つの街道で、途中の中山峠の近くの山あいに「からほこの池」という大きな池があるんや。
 戦国時代、織田の軍勢が伊賀に攻めてきて布生村の近くに来たときのことじゃ。見張りの者が急いでみんなの所へ知らせに走った。
 「おーい。一大事じゃ。敵の軍勢が攻めてきとるぞー。」
 村の国津神社にはご神体をまつっているほこらがあるもんじゃから焼かれてしまっては申し訳がない。村人はほこらを安全なところへ移す相談をしてな、曽爾の伊賀見に場所を決め、かすけともすけが移すことになったそうな。ご神体の入ったほこらを棒にしっかりとくくりつけ、はずれないようにして出発したのじゃ。
 季節は冬で山には雪が降り積もっていた。それはそれは寒くて二人は震えながら山道を登っていったんじゃ。道端にはつららが垂れ下がり、歩く足元は霜柱がびっしりと立っていたそうじゃ。そのとき下の方から声が聞こえてきた。織田の軍勢が、布生から二人が大きな荷物を持って出て行ったのを見つけ、探しにきたそうな。二人はつかまるまいと山道を重たいご神体を担いで走っていったそうな。
 しかし、だんだんと道が険しくなって、足元はふらふら。真冬だというのに汗びっしょりになってしまった。とうとうへたばってしもうて池のほとりに座り込んでしもうた。近くまで織田の軍勢がやっていきた。かすけともすけは、重いほこらを池のほとりに置き、ご神体だけを取り出してかつぎ、大きな木のかげに隠れて様子を見ていたそうな。すると織田の軍勢はほこらを取り囲んで壊そうとしたそうな。
 そのときじゃ。かすけともすけは、池の中で動く大蛇のようなものを見たそうじゃ。それは、うっすらと氷のはった池の中をゆっくりとほこらの方へ進んでいった。そのものの頭に鹿のような大きなつのが二本、背中にはふさふさとした緑色のたてがみがあるのをかすけはしっかりと見た。あれが話に聞く「竜」なのかとかすけは思ったそうじゃ。その大蛇に織田の軍勢は、気付いていない。
「ばりばり」
池の氷を破って、大蛇が顔を出した。大蛇なのか竜なのかかすけももすけもようわからんかったそうじゃ。織田の軍勢はみんな腰を抜かしてその場にしゃがみこんでしもうたそうな。かすけももすけも声にならん声をあげてしもうたそうじゃ。
 大蛇が池から顔を出したときからかすけともすけは不思議なことに気がついた。木という木、草という草から冬だというのに一斉に花が咲きだした。一瞬にしてあたりは春のようになってしまったそうじゃ。山に降り積もった雪と池の氷に桃色や赤の花が映し出され、まるで極楽の中にいるように感じたそうじゃ。
 織田の軍勢は、そんなことにも気付かず、一目散に我先にと逃げていったそうじゃ。
 それから大蛇は、ゆっくりと池から出ると、ほこらの中に消えていったそうじゃ。
 かすけともすけは、ほこらはそのままにご神体だけを持って中山峠を越え、目的地にたどりつき、伊賀見にひっそりとご神体を祭ったそうじゃ。

 それからほこらを置いていった池は「からほこの池」と呼ばれ、お参りする人もたくさんおったそうな。

      
(なばりの昔話を参考に創作しました)

5・6年 図工
からほこの池

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