5.6年 図工
かくりょう山

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神屋の山には、むかしから、てんぐ様がすんでらしゃると伝えられておりますのや。
ある日、村の子どもたちがその山でかくれんぼをしておりましたのや。その夕方になって、金太郎という男の子が、急にいなくなってしもうた。
「金太郎ちゃんがおらんようになってしもうた。」
いっしょに遊んでいた連れの男の子たちが、泣きながら金太郎の家に連絡してきたので、
「これは大変だ。村のみんなに応援してもらおう。」ということで、村中総出で金太郎をさがすことになったのや。
「金太郎をかえせ。カーン、カーン、カーン。」
鐘をたたいてさがしたそうや。
 
 一方、金太郎は、・・・
(時間は、村の子どもたちとかくれんぼをしていたころにもどる)
「ぜったい見つからないところにかくれてやる。」
一番年下の金太郎は、いつもかくれんぼをすると一番に見つけられてしまう。それで、今までだれも行ったことのない山奥まで入っていった。不思議なことに少しも怖いと思わなかったそうじゃ。そのとき、子ども一人がやっとくぐれるぐらいのほら穴を見つけたそうな。しばらくその穴の中でかくれていると、穴の奥から楽しそうに遊んでいる声が聞こえてきたそうな。「なんだろう。」と思った金太郎は、少し怖いと思いながらも穴の奥に入っていったそうな。穴の出口からそっと顔を出して見ると、数人のてんぐの子たちが自分たちと同じようにかくれんぼをして遊んでいたそうな。てんぐの子たちは、話で聞いたとおり、顔は赤く、鼻はどこまでも高く、手にはみんなかえでの葉を持ち、足には、一尺の高さはあろうかという一本下駄をはいていたそうな。自分たちと違うのは、てんぐの子たちは、歩くかのように木から木へとふわふわと飛び回っている。遠くにてんぐの家が見えたが、そのりっぱな家は木の上にたっていたそうな。
 思わず声を出してしまった金太郎にあるてんぐの子が気づいたそうな。てんぐの子は、さほどびっくりした様子もなく、金太郎に
「いっしょにあそぼう。」
と言ってきたそうな。金太郎もその一言で安心をしていっしょに遊ぶことにしたそうな。ところが金太郎は、てんぐの子どもたちのように木から木へと飛びまわれない。そのことに気づいたてんぐの子が、金太郎に高い下駄とかえでの葉っぱをわたしてくれた。するとどうだろう金太郎もてんぐの子たちと同じように木から木へと飛びまわれる。
 そうして、一年、二年とてんぐの子たちと楽しく過ごしたそうな。ある時金太郎は、ふとお父さんとお母さんのことを思い出した。するとすごく気持ちがふさぎこんでしまったそうな。そんな金太郎を見ていたてんぐの子たちは、金太郎に
「お家に帰るか。」
と聞いてくれたそうな。ところが、てんぐの世界の一年は人間の世界の十年にあたる。金太郎の過ごした二年間は人間世界では二十年になっており、金太郎も二十五歳のりっぱな青年に成長していた。金太郎は、そのことをすごく気にしていたそうな。そのことを知ったてんぐのお父さんは、金太郎に
「一回だけ、時間を戻せるじゅもんを教える。このじゅもんを3回となえると、金太郎は、もとの五歳にもどれる。ただし、てんぐの村への道をだれかに教えたとたんに金太郎は、消えてなくなるがそれでもいいか。」
 てんぐの村も金太郎はたいそう好きになってきてきたところだったのですが、お父さんやお母さんのことも心配になってきた金太郎は帰る決意をしたそうな。
てんぐのお父さんは、金太郎に、
「ほら穴の出口で、アブラチンプンソアカと三回唱えるんじゃ。すると、金太郎は五歳に戻り、ここでの記憶のほとんどは消える。ただ、てんぐの村への道を話すと消えてしまうことと、てんぐにさらわれたという記憶だけが残る。元気でな。人間の息子よ。」
と言ったそうな。

 「金太郎をかえせ。カーン、カーン、カーン」
すると山奥から、
「ワーン、ワーン、おかーちゃん。」
と泣き叫びながら金太郎がでてきたのやわ。金太郎をかくしたのはやはりてんぐ様のしわざであったそうや。今でも夕方、かくれんぼをするとてんぐ様に連れて行かれるということや。
 そのてんぐ様がいらしゃる山を「かくりょう」と呼んでいるのやわ。かくりょうとは、子どもをかくすという意味だそうですんや。


(「名張の民話」を参考に一部お話をつけたしました。)

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